TKO木下隆行「タイ移住」で自ら閉ざした再起の道

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(2018年撮影:つのだよしお/アフロ)

お笑いコンビ・のが、コンビのYouTubeチャンネル内の動画で、9月からタイに移住して芸能活動をすることを発表した。相方のと並んで動画に登場した木下は、海外移住を決めた経緯について語っていた。

具体的な理由ははっきりしなかったが、新しい環境に移って挑戦をしたいという意志は伝わってきた。はたして彼のタイ移住に勝算はあるのだろうか?

ようやく掴んだ成功の後に起きたパワハラ騒動

の芸人人生は決して順風満帆なものではなかった。1990年代に彼らは大阪を拠点にして活動を始めた。何度か東京進出を志すも、ことごとく失敗して挫折を味わっていた。

2008年頃にようやくブレークを果たし、全国ネットのバラエティ番組に顔を出すようになった。コントの大会「キングオブコント」で決勝に進んだこともあり、ネタの評価も高かった。

しかし、その状況を一変させたのが、木下の後輩芸人に対するパワハラ騒動である。後輩にペットボトルを投げつけるという事件が明るみに出ると、世間の批判は一気に高まった。

これを受けて、2020年に木下は所属事務所の松竹芸能を退所することになった。自身のYouTubeチャンネルを開設して、謝罪・釈明の動画を公開したところ、そこに視聴者からの「低評価」が殺到した。彼はお笑い界随一の嫌われ者になってしまった。

さらにトラブルは続いた。2022年には相方の木本の巨額投資トラブルが報じられ、木本も事務所を退所することになった。は「不祥事コンビ」という汚名を着せられた。

木本がトラブルについての謝罪会見を行った際には、途中からその場に木下が加わり、コンビとしての活動再開を発表したことも批判を浴びた。謝罪の場にそぐわない自分本位の発表をしてしまったことで、世間のイメージはさらに悪くなった。

原点に戻って地道な活動を続けたが…

2023年から2024年にかけて、彼らは47都道府県を回るツアーを行い、日本中の観客の前でコントを披露した。窮地に追い込まれた彼らは、コントという自分たちの原点に帰って、芸人としての活動を再開することにした。チケットが売れていない場所では、自ら街頭に立って手売りをした。目の前の観客に笑いを届けることに手応えも感じていたという。

彼らは「キングオブコント」で優勝するという目標を掲げていた。しかし、満を持して挑んだ2024年の大会では決勝に進むことができず、予選で敗退してしまった。

大規模なツアーを行い、コントに向き合ってきたが、思うような結果は出なかった。その後、木下は後輩芸人と共に漫才の大会「M-1グランプリ」にも挑戦したが、そちらも3回戦敗退に終わった。

その頃からコンビとしての活動がどんどん減っているように見えた。コンビのYouTubeチャンネルの動画の再生回数も減っていき、ここ半年ほどは新しい動画が公開されることもなくなっていた。

というコンビが世間からの評価を取り戻すためには、今後もネタを作り続けて、地道にライブを行い、笑いの現場で汗を流す姿を見せるのが唯一の道ではないかと期待されていた。

しかし、そんな状況で木下が選んだのは、個人でタイに移住するという決断だった。今後も一時的に帰国して仕事をする可能性もあると語っていたものの、コンビとしては事実上の活動休止状態になってしまうのは間違いない。

タイでの活動について木下の口から具体的な計画が何も語られていない以上、世間から見れば、ここでもまた不誠実さが露呈したように映る。

タイ移住に具体的な展望がないのであれば、成功につながる見込みも薄く、国内での活動基盤を完全に失い、再起のチャンスを自ら断ってしまったようにも見える。

コンビとしての復活への道筋は遠のいた

2人ともテレビに出る機会はほとんどなくなっていて、というコンビそのものが表舞台から消えつつある。そんな状況下での木下の決断は、自らの可能性をさらに狭め、未来を閉ざしてしまった印象が否めない。

今回の移住発表は「新しい挑戦」というよりも「行き場を失った末の逃避」に近いように見える。少なくともコンビとしての復活への道筋はますます遠のいた。

かつてはテレビの中でもたしかなポジションを築いていた芸人が、過ちを繰り返し、結果的にどんどん厳しい状況に追い込まれている。迷走を続ける彼らが「コント」という原点に再び戻ってくる日は訪れるのだろうか。

(ラリー遠田 : 作家・ライター、お笑い評論家)

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