YOSHIKIは“違法性”を匂わせ『ダンダダン』に苦言も…“芸能人パロディキャラ”に「事前の許可」は必要か?

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8月に放送された、テレビアニメ『ダンダダン』(第2期・第18話)に、ヴィジュアル系ロックバンドをモデルにしたと思われるパロディキャラクターが登場し、同バンドの代表曲「紅」をオマージュした楽曲を演奏した(本文・友利昴)。

「この手のものは、多分先に関係者へ連絡した方がいいみたいだよ」

すると放送後の8日、他でもないのリーダーさん本人がこの演出にSNS(X)上で言及。

「侵害の可能性があるとのことで、どうなるのだろね」「みなさん、この手のものは、多分先に関係者へ連絡した方がいいみたいだよ」と、侵害の可能性を示唆しつつ、事前にひと声かけるべきとの旨を表明したのだ。

> 最初これを知った時は、なんだか面白くて笑っていたら、弁護士達からも連絡がきた😱
> 侵害の可能性があるとのことで、どうなるのだろね🤔
> みなさん、この手のものは、多分先に関係者へ連絡した方がいいみたいだよ …
>
> – Yoshiki (@YoshikiOfficial)

さんといえば、日本はもちろん世界的なロックスターである。そんなスターから、いきなりSNSという公の場で、名指しで違法性を匂わされたとあっては、関係者の動揺は想像に難くない。

しかし放送された楽曲と「紅」を聴き比べると、具体的なメロディ、歌詞、アレンジどれをとってもその表現の本質部分が似ているとは評価しがたく、法上の問題はないだろう。また後述する通り、キャラクター描写にも法的な問題はなく、今回はさんの勇み足と評価せざるを得ない。関係者は、そのとばっちりを受けたというわけだ。

なお、翌日の9日、さんは「今回の件、急に連絡が来て驚いて、つい呟いちゃいました。お騒がせしてすみません」と投稿している。

デーモン、矢沢……パロディにキレるロックスター

過去を振り返ると、2018年に、ヘヴィメタルバンド・聖飢魔Ⅱのデーモン閣下さんが、NHKのアニメ『ねこねこ日本史』に出てきたパロディキャラに対し「吾輩の肖像が何のことわりもなく使われている」とブログで怒りを表明。

2004年には、ロックミュージシャンの矢沢永吉さんが、あるパチンコ機のスーパーリーチが確定した時に0.3秒間だけ映る人物画像が、自分のパブリシティ権を侵害すると主張したことがある。

このうち、実際に裁判沙汰にしたのは矢沢さんだけだが、敗訴。判決後、「控訴したら別の判決がでるかもしれないけど、かったるいからやめます」という“伝説”のコメントを残した。

われわれは、時折、他愛もないパロディにキレるロックスターの意外な一面を目にすることがあるのだ。

アニメや漫画などの作品内で、芸能人を想起させるパロディキャラが描かれることには、古今東西多くの例がある。これらの中には勝手に描かれたものもあれば、儀礼的な挨拶(あいさつ)を経て描かれたものや契約による許諾に基づいて描かれたものも混在しているかもしれないが、果たして「許諾を得なければならないもの」なのだろうか。

結論からいえば、アニメ等の作品内に登場する芸能人のパロディキャラは大半が合法であり、法的に許諾を取る必要はない。

芸能人パロディに原則として許可が「不要」なワケとは?

芸能人でも一般人でも、人は誰しも他人に自分の肖像を無断で、あるいは不当に利用されない権利を持っている。いわゆる肖像権と呼ばれるものだ。

しかし、芸能人や歌手などの有名人の場合、その職業性質上、社会からの関心の対象となることは必然である。そして、表現の自由を重視する観点から、芸能人等の肖像については、社会の関心に応えるための表現行為においては、ある程度は利用される必要性・正当性がある、とされている。

つまり、芸能人は一般人よりも肖像権が制限されており、肖像を利用されることを基本的には受忍しなければならないのである。

その代わりに、彼らは一般人にはない権利として「パブリシティ権」を持っている。これは、有名になった自分の肖像や氏名が持つ顧客吸引力をコントロールできる権利である。

一般に、芸能人等が自分の肖像等を無断で商用利用されたときに主張する権利は、このパブリシティ権だ。

だがパブリシティ権とて、いかなる商用利用に対しても行使できるわけではなく、実際にはその範囲はかなり限定的だ。最高裁は「専ら(もっぱら)肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」に限るとしている。「専ら」ということは実質的に顧客吸引力を利用する以外の目的がないということだ。

これに該当する具体的なシチュエーションとして、タレントグッズとしての商品化や、広告への利用などが挙げられている。

では、アニメ等の作品内に芸能人の肖像を利用することは、どうだろうか。制作サイドに、その顧客吸引力にあやかる狙いが多少はあったとしても、メインの作品内における表現行為の一環の行為であるから、「専ら」あやかる目的しかない、とはいえない。大半のケースで、パブリシティ権を侵害することはないだろう。これが、作品内における芸能人パロディキャラが合法となる理由である。

パロディに伴う侵害やには要注意

ただし、いくつかの注意点はある。作品内での肖像の利用に伴って、パブリシティ権ではない別の権利を侵害することがあるためだ。たとえば。アーティスト写真を忠実に模写して掲載したような場合は、写真の侵害になり得る。また、パロディキャラに本人の楽曲の替え歌を無断で歌わせれば、楽曲の侵害になるだろう。

もっとも、今回の『ダンダダン』がそうであるように、に抵触しない形でのパロディやオマージュは可能である。また、パブリシティ権を持つ芸能人本人が、自身の写真や楽曲のを保有していないことも多い(写真家や作曲家、音楽会社が権利者)。その場合、少なくとも元ネタの芸能人との関係においては権利侵害を生じない。

もう一つの注意点が、(きそん)や侮辱の問題だ。悪意のあるパロディで、元ネタの芸能人等の名誉を毀損したり侮辱する場合は、この点での法的責任を負うことになる。その際、たとえパロディによるディフォルメや名前のもじり・伏せ字などの措置を施したとしても、表現全体から客観的に本人と特定できる状況にあれば、免罪符にはならない。

また、アニメ等ではあまり関係がないが、芸能人等であっても隠し撮りなど私生活における肖像写真等の利用は、プライバシー権の侵害に当たり得る。

芸能人パロディキャラクターのグッズ化は難しい?

さらに別の観点で、このような問題もある。作品内の芸能人パロディキャラの人気が出て、フィギュアなどのグッズ化の話が持ち上がることがある。

作品内の一要素としての表現であればパブリシティ権を侵害しないが、独立したキャラクターグッズとなると「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」に当たる可能性が高まる。

芸能人のパロディキャラは、アニメ化や映画化はできても、グッズ化の段階でパブリシティ権のハードルが立ちふさがることがあるのだ。

ただし、この場合「本当にその芸能人の肖像を利用しているといえるのか」という観点での検討も必要だ。たとえば、ロックシンガーやヴィジュアル系バンドには、その分野のステレオタイプといえる見た目の特徴がある。

「白いジャケット姿で、タオルを肩にかけ、マイクスタンドを傾け、スピーカーに片足をかけている」

「革ジャンに、金髪を真っすぐに立て、白い顔に極端な目張り、細身で、雄たけびを上げている」

こうした抽象的なステレオタイプ表現に頼れば、矢沢永吉さんやのメンバーを元にしていると言われればそうとも見えるが、90年代のヴィジュアル系バンドをイメージした架空のキャラクターだと言い切ることもできなくはないだろう。

事前の許可が「当たり前」との思い込みはかえって失礼

アニメや漫画の作者や制作者が、パロディキャラを登場させるにあたって、礼儀として、あるいは事実上のトラブルを回避するために、事前に本人の承諾を得ることはよくある。

特に仕事上の付き合いや上下関係がある相手であれば、誰に言われるでもなく、あらかじめ本人に伝えることは、礼儀として大事だろう。トラブル回避のための許可取りは、かえってヤブヘビになるリスクもあるが、実務を円滑に回すためのビジネス処世術として有効な場合もあろう。

法的評価にかかわらず、制作サイドの判断で、自主的に、ひと声かけにいくことは大いに結構なことだと思う。

だが問題は、そんな風に周りに気を遣われることが常態化しているのであろう一部の芸能人等が、事前許諾を「当たり前」だと思い込み、「オレにひと言挨拶に来い」などと尊大な態度を取ることや、無許諾のパロディキャラが登場する作品を違法・不正なものであるかのように決めつけることだ。

そうではない。制作サイドは、本来は不要な許諾を、礼儀やトラブル回避を重視して、わざわざ取りにきてくれているのだ。そこに感謝こそすれ、「許可を取って当然」といった態度を公に表明したり、ましてや、あたかも違法であるかのように喧伝して作品や作品の制作者をおとしめることには、抑制的であるべきではないだろうか。

その芸能人にファンがいるのと同じように、作品にもファンがいて、表現を練り上げ、盛り上げるために努力する作家やスタッフがいるのだ。その人たちへの礼儀や配慮もまた、必要であろう。

「俺が見えないのか
すぐそばにいるのに」という歌詞は、確かに私たちの心を撃ち抜いた。しかしこの言葉を、ビジネスシーンで不用意に大御所が使えば、指揮系統に混乱を招く、面倒くさい他部署のお偉いさんである。「いや、あなたの承認を得るルールにはなっていませんから」と言わねばならないのだ。

■友利昴

作家。企業で知財実務に携わる傍ら、著述・講演活動を行う。ソニーグループ、メルカリなどの多くの企業・業界団体等において知財人材の取材や講演・講師を手掛けており、企業の知財活動に詳しい。『江戸・明治のロゴ図鑑』『企業と商標のウマい付き合い方談義』『エセ事件簿』の他、多くの著書がある。1級知的財産管理技能士。

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