4年前の7月29日、福岡・中間市で炎天下の送迎バスに取り残された園児が亡くなった。「忘れて欲しくない」。園児の母親が当時の思いと再発防止を強く訴えた。
「冬生、冬生と呼んでも反応が全然…」
大好きだった『鬼滅の刃』の必殺技を家族の前で披露する男の子。亡くなった倉掛冬生ちゃんだ。

冬生ちゃんは、2021年7月29日、中間市の双葉保育園で、炎天下の駐車場に停められた送迎バスの車内に約9時間、取り残され、亡くなった。死因は、熱中症だった。

現場となった駐車場に設置されている献花台には、冬生ちゃんがなくなったこの日、多くの花や飲み物が手向けられ、幼い命を悼んで祈りを捧げる人の姿がみられた。

「暑い日が続くと怖いですね…、暑い日が続くと…、冬生も、あのなかで暑かっただろうなと思い出す」と声を絞り出すようにして言葉を紡ぐのは冬生ちゃんの母親。冬生ちゃんの命日を前に遺族がテレビ西日本の取材に応じた。

「冬生は、すぐ病院に救急車で運ばれていて、病院に行ったら心臓マッサージしていて…、突如、急に…、もう冬生、冬生、冬生と言っても全然反応がなくて」と発見時の“緊迫した状況”について母親は苦しい思いで4年前を振り返る。

最後の会話は、冬生ちゃんが送迎バスに乗る直前に「いってらっしゃい」と手を振って送り出した朝だった。

「会いたくても会えないから、辛い…」
警察によると冬生ちゃんが取り残された際、バス内の温度は50度以上に達していたという。「暑かっただろうなと思いますけど…、飲み物もなくて、あのなかに9時間、て言ったら、ちょっと考えられないかな」と話す母親。

「4年、経ちますけど、冬生のことを忘れたことはありませんし、やっぱり暑くなると、あのなかでいたことが思い出してしまって、涙が出ることが多いです」

「お風呂のなかでいつも一緒に話していたことが忘れられません。好きな子の話とか、よく幼稚園であった出来事とかをよく話してくれてましたけど…、はい…、それが忘れられなくて…」

母親思いの明るく優しい性格だったという冬生ちゃん。「もう…、辛いですし、会いたくても会えないからですね、辛い…、から、絶対なってほしくないですね」

安全管理が徹底されていれば、失われることはなかった冬生ちゃんの命。冬生ちゃんの母親は、再発防止を強く願っている。「事故の記憶が、薄れていっていると思うけど、やっぱりこの事故を忘れて欲しくないと思います」

この事件を巡っては、基本的な注意義務を怠ったとして、当時の園長らに有罪判決が言い渡されたほか、2023年4月からは、国が全国の通園バスに置き去り防止装置を設置することを義務化している。
命を守るための対策を園が強化
北九州市八幡東区の高見幼稚園。安全装置が設置された送迎バスのエンジンを切るとバス内に音楽が流れる。「この音楽は、一番後ろにあるスイッチを押さないと止まりません」と話す高見幼稚園の国武昌司さん。

バスの運転手は音楽が流れているうちにバス最後部に設置されたボタンを押す必要があるため、園児の置き去りを防ぐことができる。もし取り残されてしまった場合には、園児が異変を伝えられる装置も設置されている。「子どもたちがマットを踏んだり、オレンジのSOSボタンを押したりするとクラクションが鳴り始めます」。マットを踏むとクラクションが鳴る仕組みだ。後部のボタンを押すまでクラクションが大きな音で鳴り響き続ける。

対策はそれだけではない。電話で行っていた園児の出欠連絡も、2024年から専用のシステム上で管理できるようになり、命を守るための対策を園独自に強化している。

園長の松崎恵龍さんは「安全装置など、便利な世の中になったとしても結局、最後は人の目だったり意識だったりっていうものが命を救うことに繋がると思います。私たち1人1人が『自分が最後の砦なんだ』という思いを持って子どもたちの安全確認をしっかり行っていきたい」と話していた。
(テレビ西日本)