街中にあふれる防犯カメラ。容疑者を追い詰める“無数の目”を収集・解析するプロ集団がいる。
広島県警は2025年4月、映像捜査に特化した専門部署「CISA」を新設。凶悪事件を解決に導いた最前線に密着した。
映像の中の“数ミリ”を追う
真っ暗な室内で防犯カメラに人影が写っていた。
「無施錠の玄関から犯人が入ってきた。これを鮮明化すると…」
暗くて見えなかった犯行の手口が、映像の解析で見えるようになる。

防犯カメラの映像などから容疑者の足取りを追う。この役割を担うのが、広島県警の捜査支援分析課=通称「CISA」(シーサー)だ。
CISAは「凶悪事件」だけでなく、身近な犯罪にも丁寧に取り組む。
広島市中区の公共施設「ゲートパークプラザ」で7月1日、案内掲示板の裏や街灯に同一犯とみられる“らくがき”が見つかった。
公園管理人からの被害届を受け、警察は器物損壊事件として捜査を開始。映像収集を任されたのは、寺畠章太巡査部長(43)と山崎春奈巡査長(38)だ。
「人の記憶は曖昧なところもありますが、映像は間違いがない」と寺畠巡査部長。

7月15日、2人は現場周辺で防犯カメラを探す。
まず目をつけたのは街灯のすぐそばにある「こども文化科学館」。
「防犯カメラを見せていただけますか?」
施設の入り口のカメラが現場を写していた。らくがきされた街灯も確認できる。2人はわずかな変化も見逃すまいと映像に目を凝らした。
犯行時間は特定できていない。警備員がらくがきに気づいたのは7月1日の午後10時半ごろ。前日の同じ時間に巡回した時にはらくがきはなかったという。つまり、6月30日の午後10時半ごろから24時間の間の犯行か。
さらに、人目の少ない夜間に行われた可能性が高いとみて、夜の時間帯をチェック。だが、手がかりとなる人の姿はあったものの犯行の様子は写っていなかった。
「欲しいところに必ずカメラがあるわけではない。みなさん、守りたいものがあって付けている。私たちはその中で容疑者を追わせてもらっています。ほんの数ミリ、数センチの動きを追うこともある」と山崎巡査長は話す。
「写っていない」から得られる情報
次に2人が注目したのは、らくがきされた掲示板から約50メートルの場所にある駐輪場の防犯カメラだった。

山崎巡査長が実際に現場に立ち、カメラに“写る位置”を確認。この映像で「容疑者を特定できる」と確信を持った。しかし、またもや決定的瞬間は写っていない。

「もうちょっと早く見つかる予定だったんですけど…」
想像以上の苦戦に寺畠巡査部長がうなだれる。それでも、山崎巡査長は「写っていないことも大事な情報」だと言う。
「写っていないことで捜査範囲を絞ることができる。見せてもらった映像すべてが捜査の流れにつながるありがたい情報です」
すべて無駄ではないー。地道な積み重ねこそ、容疑者特定の近道なのかもしれない。
620カ所・3400時間の映像解析
CISA発足のわずか2週間後、世間が注目する事件が起きた。2025年4月、広島・府中町の“夜の公園”で発生した強盗殺人事件だ。
CISAは事件翌日から最大人員を投入して、県内外620カ所、3400時間分に及ぶ映像を収集・解析。防犯カメラの映像を“リレー”のようにつなぎ合わせる捜査で男女3人の足取りを突き止め、逮捕に至った。

容疑者特定に向けた映像解析はどのように行われたのか。
収集された映像は、夜間の暗い公園を人が歩く姿。CISAの花田綾巡査部長(37)に、事件とは関係ない映像で「画像の鮮明化解析」を実演してもらった。

「暗くて識別しづらい映像も鮮明化すると明るくなり、髪型や服装、性別など、特徴が浮かび上がってきます」
CISAの設立以降、県警には事件捜査だけでなく、交通事故など幅広い事案の解析依頼が寄せられている。「コツコツと、時間はかかっても一つひとつ丁寧に鮮明化したい」と花田巡査部長は語る。
デジタルなのに最もアナログ?
映像解析の技術が進む一方で、リレー捜査の映像収集は足で稼ぐ地道な作業だ。防犯カメラを付けている施設や店舗、住宅の1軒1軒に協力を求める。

山崎巡査長は「協力してくださった方から『頑張ってね』という声をいただくこともあって、すごく励みになります。デジタルでありながら一番アナログな作業かもしれません」と微笑んだ。
2人は県警本部に戻り、収集した映像を細かく確認した。だが、やはり犯行は写っていない。関係者に再度話を聞き、犯行推定時刻を見直すことになった。
「見ていない時間帯があるので、そこを確認します。防犯カメラはウソをつかないので」と山崎巡査長。

寺畠巡査部長は「これからの時代、リレー捜査でどんどん犯人を逮捕していくことになると思います。“あきらめない”という思いでやっています」と気持ちを新たにした。
デジタル解析の裏で行われていたのは、まさにアナログそのものと言える映像収集。足で稼ぎ、最新技術を駆使して事件を解決に導く。新たな試みは始まったばかりだ。
(テレビ新広島)