部活帰りの中学生が熱中症で亡くなり2年…「同じ悲しみ起きぬよう」娘亡くした両親の想いが形に・対策リーフレット完成【山形発】

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2023年、山形・米沢市の中学校に通う女子生徒が部活動からの帰宅中に熱中症で倒れ、その後、亡くなった事故からまもなく2年が経つ。亡くなった生徒の両親は、「同じ悲しみは2度と起きてほしくない」と考え、市の教育委員会と共同で「熱中症対策」をまとめたリーフレットを作った。

乙葉リーフレット
乙葉リーフレット

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熱中症は点滴で回復すると思ったが…

2023年7月28日。
米沢市立第三中学校に通う当時1年生の女子生徒が、部活動からの下校中、熱中症で路上で倒れ、病院に運ばれたが亡くなった。

事故当時、米沢市の気温は約32℃だった。

当時中学1年生だった女子生徒が部活動の帰り道で倒れ、熱中症で死亡した
当時中学1年生だった女子生徒が部活動の帰り道で倒れ、熱中症で死亡した

島扇乙葉さん(当時13歳)。
小学生時代は児童会長。中学生になってからも学級委員に立候補したり、剣道部で活躍したりと、何事にも活発に取り組む女の子だった。

米沢三中の1年生だった島扇乙葉さん(当時13歳)
米沢三中の1年生だった島扇乙葉さん(当時13歳)

事故から間もなく2年。
7月、乙葉さんの自宅をたずねると、部屋には乙葉さんが好きだったキャラクターや、中学校の制服・部活動で使っていた竹刀などが飾られていた。

乙葉さんの自宅の部屋には、好きだったキャラクターがたくさん並んでいた
乙葉さんの自宅の部屋には、好きだったキャラクターがたくさん並んでいた

乙葉さんの父・直人さん:
病院搬送時、熱中症と聞いて、点滴して回復するかと思っていた。そこまでになるのか…と。熱中症への考え方は変わりました。

乙葉さんの父・直人さんが胸の内を語ってくれた
乙葉さんの父・直人さんが胸の内を語ってくれた



子どもたちのためにできることは何か

事故の後、ずっとやりきれない思いを抱えていたという乙葉さんの両親。

そんな時、埼玉で駅伝の練習中に女子児童が亡くなった事故を教訓に作られた「体育活動の際の事故対応テキスト・ASUKAモデル」の存在を知った。

埼玉で作られた“ASUKAモデル”
埼玉で作られた“ASUKAモデル”

「同じ悲しみは、2度と起きてほしくない」
乙葉さんの両親は、ASUKAモデルを知ったことをきっかけに市の教育委員会に働きかけ、子どもたちに熱中症対策を呼びかける独自のリーフレットを作った。

乙葉さんの両親が市教育委員会に働きかけて作った“乙葉リーフレット”
乙葉さんの両親が市教育委員会に働きかけて作った“乙葉リーフレット”

表紙には、母・郁美さんが描いた、剣道着姿の乙葉さんをイメージした女の子。

中を開くと、「こまめな水分補給」や「冷たいタオルや氷などで体を冷やす」など、熱中症への対策がわかりやすく書かれている。

熱中症対策の大事なポイントがわかりやすく、イラストと文字でまとめられている
熱中症対策の大事なポイントがわかりやすく、イラストと文字でまとめられている

イラストは、乙葉さんの母校・米沢三中の生徒全員がこのリーフレットのために描いてくれたそうで、その中から選ばれたもの。

乙葉さんを思うたくさんの気持ちが形となったリーフレットは、乙葉さんの誕生日に合わせ6月15日に発行され、印刷された8000部は市内すべての小・中学生に配られた。



教育現場で進む熱中症対策

乙葉さんが通っていた米沢三中。
事故からまもなく2年。教育の現場でも熱中症対策が進められている。

米沢市内6つの中学校すべてで熱中症対策が進んでいる
米沢市内6つの中学校すべてで熱中症対策が進んでいる

米沢市では、2024年度から市内に6つある中学校全てで、「暑さ指数」をリアルタイムで共有できるシステムを導入した。

米沢三中では、データはあくまで参考とした上で、複数の教員が毎日決まった時間に体育館・グラウンドなどで気温・暑さ指数を測り、体育の授業や部活動を行うか・それとも中止するかの判断基準に活用している。

米沢三中では暑さ指数を把握できる機器の数値を参考に、屋内・屋外での活動の判断をしている
米沢三中では暑さ指数を把握できる機器の数値を参考に、屋内・屋外での活動の判断をしている

米沢市立第三中学校・土屋一雄教頭:
活動場所で実測し、暑さ指数が思ったよりも厳しいと確認した場合は、活動内容を変更して体育館で行ったり、保健体育の学習に切り替えたりしている。

米沢市立第三中学校・土屋一雄教頭
米沢市立第三中学校・土屋一雄教頭

イットが取材した日は、暑さ指数の数値が朝から「警戒」レベル。
そのためグラウンドでの運動は禁止。この日の体育の授業は、全て外ではなく屋内での運動とした。

体育の授業中もこまめに休憩時間が設けられている。
強力な扇風機やスポットクーラーで体を冷やし、こまめに水分補給する生徒たち。
事故の後にとられた熱中症対策が浸透していることがうかがえる。

体育館での活動中も、こまめに水分補給で対策をしていた
体育館での活動中も、こまめに水分補給で対策をしていた

乙葉さんが教えてくれた大切なこと

米沢三中・3年2組の教室には、今も乙葉さんの机がある。

亡くなった当時、乙葉さんは1年生だったが、2年が経ち3年生になった。
乙葉さんの笑顔の写真と、彼女が好きだったキャラクターが、クラスの仲間たちを静かに見守っている。

乙葉さんも同級生とともに3年生になっていた
乙葉さんも同級生とともに3年生になっていた

米沢市立第三中学校・土屋一雄教頭:
“乙葉リーフレット”を配布し、生徒に話を聞くと「自分の命を自分で守らなければならない」と子どもたちが自覚・決意を述べていた。
乙葉さんが私たちに本当に大事なことを教えてくれた。

「乙葉さんが大切なことを教えてくれた」としみじみと伝えてくれた
「乙葉さんが大切なことを教えてくれた」としみじみと伝えてくれた

乙葉さんが倒れていた場所には、2年が経つ今も飲み物や花が手向けられていて、家族や友人だけでなく、多くの市民にとっても非常に大きな衝撃を受けた事故であったことがうかがえる。

乙葉さんが倒れていた場所には今も花・飲み物などが絶えない
乙葉さんが倒れていた場所には今も花・飲み物などが絶えない

市内の公共施設には、乙葉さんの祖母が描いた「啓発ポスター」が掲示されている。

乙葉さんの家族はリーフレットの完成後も、市民に熱中症対策の重要性を呼びかけ続けている。
「命を守ること。これから先、同じことが起こらないこと。それが乙葉と私たちの願いです」と、父・直人さんが話してくれた。

乙葉さんの優しい笑顔は、私たちに大事なことを伝えてくれている。

コミュニティセンターに掲示された乙葉さんの祖母が描いた啓発ポスター
コミュニティセンターに掲示された乙葉さんの祖母が描いた啓発ポスター

連日危険な暑さが続いていて、熱中症は人ごとではない。
「乙葉リーフレット」は、米沢市のホームページからダウンロードして見ることができる。

熱中症で痛ましいことを繰り返さないために、乙葉さんの両親・クラスメイトの想いも感じられる
熱中症で痛ましいことを繰り返さないために、乙葉さんの両親・クラスメイトの想いも感じられる

米沢市以外のみなさんにもぜひ一度目を通してほしい。見やすくてシンプルで、大事なポイントがわかりやすくまとまっている。
そして、両親やクラスメイトの想いを感じることができるでしょう。

(さくらんぼテレビ)

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