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「M-1グランプリ」優勝を目標に掲げ、トークライブや舞台で活動するお笑いコンビ・ゆにばーすの川瀬名人。しかし、M-1優勝後はひとつの区切りとして芸人を辞めるという、少し変わったプランを語っています。そのプランの背景には、どのような思いがあるのでしょうか。川瀬名人に話を聞きました。(全3回中の3回)
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■人生で泣けるほど打ち込んだことがなかった
── 改めて、川瀬名人が芸人を目指したきっかけを教えてください。
川瀬名人:大学生のとき、何の目標もなく4回も留年を繰り返していました。そんなある日、たまたまテレビで甲子園の決勝戦を見たんです。負けた高校生たちが、ボロボロ泣いている姿を見て、ふと気づいたんですよね。自分は、ここまで泣けるほど何かに打ち込んだことがあっただろうかって。そのとき、自分も、泣けるほど夢中になれるものを見つけたいと思ったんです。そんな年の瀬に、M-1でパンクブーブーさんが優勝するのを見て、「これしかない」と思いました。
── 川瀬名人は、M-1優勝という目標を公言していますよね。
川瀬名人:自分のなかで目標をちゃんと作らないと、日々の行動がブレるなと思ったんです。昔は、ダウンタウンさんやさんまさんのように、芸人にとって明確なロールモデルがいましたよね。絶対にこうなりたいって思える存在が。でも今は、本当に多種多様で、芸人としての成功パターンがいろいろあるんです。
たとえば、名前もあまり知られていない後輩が、TikTokで信じられないくらい稼いでいたり。逆に、年に1~2回だけ単独ライブをやって、それが毎回満員で、グッズもすごく売れるから、それだけで生活している芸人もいる。売れていても、テレビに出ることにこだわらない芸人もいるし、本当にいろんな芸人像があるんです。だからこそ、芸人として成功したいと思ったときに、「自分にとっての成功とは何なのか」、その内容を目標として定めないと、どう動けばいいか見えてこないと思ったんです。
── なるほど。
川瀬名人:だから、自分の中で芸人としての軸を決めることにしました。何かに打ち込みたい、という気持ちの原動力になったM-1で優勝することを、自分の目標にしました。その目標があったからこそ、ここまで折れずにやってこれた部分もあると思います。僕は、吉本興業の養成所時代に、家をなくしてホームレスになったことがあるんです。7年間交際し、同棲していた彼女の浮気が発覚。実際は僕が浮気相手だったことがわかって、家をでたんですけど。でもそのときも、「自分はM-1で優勝するんだから、こんなところでくすぶってる場合じゃないぞ」と踏ん張ることができました。M-1で優勝したいんだったら、まずは衣食住をちゃんと整えないといけないって、自分を奮い立たせることもできました。やっぱり、目標がないと何をしていいのかわからなくなると思うんですよね。
■家を失ったことで得た自信
── M-1で優勝したら引退すると言う目標をもたれていますよね。優勝後に引退するというのは珍しい気がします。
川瀬名人:M-1優勝というのを、自分の人生のひとつのプロジェクトのように考えています。だから優勝という目標を達成して、プロジェクトが終わったら芸人を続ける意味はないかのなと。
── 引退後のプランなどはあるのでしょうか?
川瀬名人:目標が達成したらいったん区切りをつけたいなと思っています。そのあとは海外旅行もしたいですけど、今は漫画家になりたいとも思っているんです。こういう話をすると「絶対無理やろ」ってなるんですけど、僕26歳で芸人になって、家もなかったやつがM-1で優勝するわけですからね。それができれば漫画家に限らず、なんでもできるだろって思っています。自分にもすごく自信がつくと思いますし。だからこそ、優勝したいです。
── 優勝したら芸人を続けて、今よりもっと稼ぎたいとかそういう欲求はないのでしょうか。
川瀬名人:お金はあとからついてきますからね。それよりも、お笑いでウケたときの快感ってすごいんですよ。僕、一度劇場でニューヨークさんと漫才で戦うことがあったんです。ニューヨークさんはすごい売れていて、大人気で無敵の状態じゃないですか。劇場内で戦うことがあっても絶対に勝てない存在なんです。でも、そんなニューヨークさんに一回だけ勝ったことがあって。そのとき、うれしすぎて舌とあごが動かなくなったんですよね。
■味わったことのない快感を知りたい
── それくらいうれしかったんですね。
川瀬名人:お客さんにもウケて尊敬する先輩にも勝って、舌とあごが動かなくなるくらいうれしかった。じゃあ、自分で目標と決めたM-1で優勝したら自分はどうなってしまうんだろうという気持ちなんです。きっと、味わったことのない快感が待っているんじゃないかと思います。その快感は当然、お金では買えないですしね。目標が困難なほど、費やした時間が大きいほど、快感も大きいじゃないですか。そう思ったら、やっぱりお金よりも快感なんですよね。優勝したその後よりも、その瞬間を味わいたいというか。人生の中で、みんなが味わえないような快感をどう味わうかっていうのが、自分の中ではすごく優先順位が高いんだと思います。
── たしかに誰も味わえない快感ですよね。
川瀬名人:そう思います。だからこそ目標をたてて日々活動をしています。目標とかゴールを設定すれば、「今、自分は何をすればいいかわからない」っていう最初の状態もクリアできると思います。1個1個の行動にも意味が出てくるというか。たとえばトークライブがあったときに、じゃあこのトークライブは何のためにやるのかと考えると、目標があるからおのずと「今回のライブでなにをすべきか」が見えてくるんですよね。僕はまだ目標を達成していないんで、何か言える立場ではないんですけど、毎日の行動が目標につながっていると思うと、やっぱりやりがいは出てくると思います。
── 家がない状態から、M-1で優勝するのは夢がありますね。
川瀬名人:当時は大変でしたけど、ホームレスになった経験も自分の中では大きな糧になっていますね。揺るがない自信というか、あのときがんばれたんだから大丈夫という気持ちです。だからこそM-1で優勝して、もっともっと快感を味わっていきたいと思います。
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夢を人生のなかでひとつのプロジェクトと設定し、目標を設定。そのプロジェクト期間の行動はすべて目標につなげて考えていくという川瀬名人。今後の活動からも目が離せません。
取材・文/大夏えい 写真提供/川瀬名人
ちゃんと 編集部