高野連の判断は正しかったのか? 広陵高校・暴力事件のSNS告発で浮き彫りになった発表内容の食い違い

夏の甲子園が始まる直前の7月、広島県の広陵高校で暴力事件があったとの告発があったことを受けて、同校は8月6日に「令和7年1月に本校で発生した不適切事案について」との発表を行いました(発表されたPDF魚拓)。

しかし、その発表内容と被害生徒の親御さんがInstagramで訴えている内容に食い違いがあるため、それぞれの発表(主張)をまとめました。

広陵高校の発表

  1. 硬式野球部の2年生部員(当時)計4名が、1年生部員(当時)1名に対して暴力をふるった。
  2. Bが胸を叩く、Cが頬を叩くDが腹部を押す行為をしたほか、Eが廊下で被害生徒の胸ぐらをつかむ行為をした。
  3. 保護者から、不適切な行為をした生徒としてF、Gの名前が挙がったため聴取したが、不適切な行為は確認できなかった。
  4. 加害生徒4名が被害生徒に謝罪した。
  5. 被害生徒は3月末で転校した。

被害生徒側の発表(Instagramの投稿内容に基づく)

  1. 10人以上に囲まれ、正座させられた状態で死ぬほど蹴られ、顔も殴られた。
  2. 監督から叱責され「高野連に報告した方がいいんか?」、「2年生の対外試合なくなってもいいんか?」などの恫喝を受け、「(報告を)出されては困ります」と言わされた。
  3. この際、3人のコーチも同席していたが、誰も息子を止めたり守ったりしなかった。
  4. 加害者と隔離される約束が守られず、食事時間も同じで、最も暴行を行った加害者が息子の隣の部屋に移動してきた。
  5. 息子だけ携帯電話を没収され、連絡手段を断たれた。
  6. 2年生から謝罪された一方で、「話を合わせておけ」と言われたり、睨まれたりした。
  7. 寮内では2年生から食堂でふざけて押されたり、風呂で通りがかりに「クソが!」と罵倒されたりした。
  8. 監督から「優等生ではない」と叱責が続いた。
  9. 加害者から1,000円で私物を購入するよう要求された話を、コーチから「お前から渡したでいいんやな?」と真実と異なる内容を肯定するよう誘導された。
  10. (文章的に4月以降に)警察に被害届を出したが、高校が加害者の事情聴取の延期を要請したため、警察の捜査が遅れている。
  11. 高野連から「高校側が高野連に提出した報告書は、被害者側に提出した報告書と人数などの内容が異なっている」という報告を受けた。
  12. 高野連本部も、高校から提出された内容からしか判断できず、調査はできないと回答した。
  13. 高校側が事態解決に動いてくれないため転校を余儀なくされた。

広陵高校の発表を根拠にする高野連の問題

広陵高校が不適切事案について発表する前日の8月5日、暴行事件を報じられた日本高等学校野球連盟(高野連)は「3月に審議し、厳重注意の措置を決定した」と発表し、事態の沈静化を狙いましたが、そもそも「高校側が高野連に提出した報告書は、被害者側に提出した報告書と人数などの内容が異なっている」のであれば、その審議の妥当性に疑問が生じます。

また、8月7日のNHKの取材に対して「SNSなどで拡散されている内容と学校から報告された内容には違いがある。学校からはこれまでに報告していた内容以外に新たな事実はないと発表があったため」とも答えていますが、これも同様です。

被害生徒側から「報告書の内容が異なっている」との声があがっているのですから、第三者による検証が必要です。

ましてや告発された内容によれば事件の内容は暴行と金銭の要求です。なぜ広陵高校は最初に警察を介入させなかったのか、理解に苦しみます。

SNS告発が当たり前の時代に、組織はどう対応するのか?

被害生徒側の主張と広陵高校の発表、どちらが本当なのかは現段階では判断できません。双方とも当事者の視点からの発表である以上、客観的な検証が必要だからです。

問題は、高野連が発表内容に食い違いがあるのに学校側の報告のみを根拠として判断を下したことにあります。被害者側の主張が発表と異なっている以上、より慎重な対応が求められたはずです。

もはや令和のいまは「正式な発表はこれで、これだけが本当です」で通しきれる時代ではありません。昔のように情報を広く伝達する手段がテレビや雑誌に限定されておらず、1億人の国民の手元にはスマートフォンという情報を発信・受信できるSNSにつながるツールがあるからです。

仮に広陵高校の発表の方が本当だったとしても、そのことをSNSで告発されたときにきちんと対応できる根拠を明確にしておかなければ、今回のような事態に陥ります。

SNSではいまも根拠不明な情報が拡散し続けている

また、今回の事例では被害生徒側がInstagramで訴えている内容以外にも、Xで匿名の第三者が「報告書の内容だ」として不確かな情報を拡散する事態となっています。

Xの方は報告書を撮影したような告発のため一定の真実性がありそうだとは筆者も感じていますが、それについて被害生徒側が認めるような発言を現時点では確認できていないため、根拠不明だと言えます。

しかし、もうすでにそれが真実であるかのように拡散してしまっており、それを根拠に一般のユーザーが広陵高校の生徒を批判(一部は誹謗中傷)しており、こちらも問題です。

今日の広陵高校の試合は予定通り行われるとのことですが、おそらくはその映像を使った誹謗中傷が飛び交うことが予想されます。そしてそれに対抗する手段はありません。一度火がついたSNS告発は、加害者も被害者も止められないからです。

この流れを落ち着かせる方法は、広陵高校と高野連が、被害生徒側の主張と真摯に向き合うことですが、それには時間がかかります。今日の試合には間に合いません。

そしてこうした状況だからこそ、私たち情報を受け取る側には冷静さが求められます。感情的な拡散や批判に加担する行為は、問題の解決を遠ざけるだけです。まずは事実の全容が明らかになるのを待ち、そのうえで建設的な議論をすることが大切だと言えます。

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